ii. 対象読者

本書を読む理由はさまざまにあると思いますが、よく挙がってくる質問として以下があります。 既にある Linux をダウンロードしてインストールすれば良いのに、どうして苦労してまで手作業で Linux を構築しようとするのか。

本プロジェクトを提供する最大の理由は Linux システムがどのようにして動作しているのか、これを学ぶためのお手伝いをすることです。 LFS システムを構築してみれば、さまざまなものが連携し依存しながら動作している様子を知ることができます。 そうした経験をした人であれば Linux システムを自分の望む形に作りかえる手法も身につけることができます。

LFS の重要な利点として、他の Linux システムに依存することなく、システムを制御できる点が挙げられます。 LFS システムではあなたが運転台に立ちます。 そしてあなたがシステムのあらゆる側面への指示を下していきます。

さらに非常にコンパクトな Linux システムを作る方法も身につけられます。 通常の Linux ディストリビューションを用いる場合、多くのプログラムをインストールすることになりますが、たいていのものは使わないですし、その内容もよく分からないものです。 それらのプログラムはハードウェアリソースを無駄に占有することになります。 今日のハードドライブや CPU のことを考えたら、リソース消費は大したことはないと思うかもしれません。 しかし問題がなくなったとしても、サイズの制限だけは気にかける必要があることでしょう。 例えばブータブル CD、USB スティック、組み込みシステムなどのことを思い浮かべてください。 そういったものに対して LFS は有用なものとなるでしょう。

カスタマイズした Linux システムを構築するもう一つの利点として、セキュリティがあります。 ソースコードからコンパイルしてシステムを構築するということは、あらゆることを制御する権限を有することになり、セキュリティパッチは望みどおりに適用できます。 他の人がセキュリティホールを修正しバイナリパッケージを提供するのを待つ必要がなくなるということです。 他の人がパッチとバイナリパッケージを提供してくれたとしても、それが本当に正しく構築され、問題を解決してくれているかどうかは、調べてみなければ分からないわけですから。

Linux From Scratch の最終目標は、実用的で完全で、基盤となるシステムを構築することです。 Linux システムを一から作り出すつもりのない方は、本書から得られるものはないかもしれません。

LFS を構築する理由はさまざまですから、すべてを列記することはできません。 学習こそ、理由を突き詰める重要な手段です。 LFS 構築作業の経験を積むことによって、情報や知識を通じてもたらされる意義が十二分に理解できるはずです。